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脳卒中

脳卒中とは

脳卒中(脳血管障害)は、脳の血管に突然障害が起こり、その結果として脳の一部が正常に機能しなくなる病気の総称です。脳卒中には「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の3つの種類があり、それぞれ原因や症状、治療法が異なります。この病気は急速に進行するため、治療が遅れると後遺症が重くなるだけでなく、生命の危機に直結することもあります。

近年、脳卒中に関する研究や治療の進展が進み、特に予防の重要性が強調されています。アメリカ脳卒中協会(ASA)は2024年に新しいガイドラインを発表し、脳卒中の約80%が予防可能であることを明言しました。このガイドラインでは、次の3つの予防策が特に推奨されています。

  1. コレステロール管理
    LDLコレステロール値を下げるために、砂糖や加工食品の摂取を減らすことが重要とされています。高コレステロールは動脈硬化を進行させ、脳梗塞のリスクを高めるため、食生活の改善が求められます。
  2. 血糖値管理
    高血糖は血管にダメージを与えるだけでなく、脳卒中を含む様々な合併症を引き起こす可能性があります。そのため、糖尿病の管理や日常的な血糖値のモニタリングが、脳卒中予防に直結します。
  3. 血圧管理
    血圧を120/80 mmHg未満に保つことが推奨されており、これにより血管への過度な負担を軽減し、脳出血や脳梗塞のリスクを低下させることが期待されています。適切な降圧薬の使用や生活習慣の改善がその手段となります。

このように、脳卒中は予防可能な要素が多い病気であり、最新のガイドラインに基づいたコレステロール、血糖値、血圧の管理が、発症リスクを大幅に減らす鍵となります。早期の予防と健康管理が、脳卒中を未然に防ぐ最も効果的な手段といえます。

脳卒中の種類と原因

脳卒中は、発症の原因によって主に3つの種類に分けられます。それぞれの特徴や原因を詳しく解説します。

1. 脳梗塞(約70%)

脳梗塞は、脳を養う血管が血栓や動脈硬化によって詰まり、血流が途絶えることで脳組織が損傷を受ける病気です。脳卒中全体の約70%を占め、最も一般的なタイプです。

脳梗塞の主な原因

  • 高血圧:血管の壁に負担をかけ続け、動脈硬化を進行させる要因。
  • 糖尿病:血管壁を傷つけ、血栓形成のリスクを高める。
  • 脂質異常症:高コレステロールが動脈硬化を促進し、血管が詰まりやすくなる。
  • 心房細動:不整脈の一種で、心臓内に血栓ができ、それが脳に飛んで血管を詰まらせる。

脳梗塞は動脈硬化が進行している高齢者に多く見られますが、生活習慣病を持つ中年層にも発症リスクがあります。

2. 脳出血(約20%)

脳出血は、脳内の血管が破れて出血することで発生します。血液が脳組織に漏れ出し、周囲の神経や血管を圧迫して障害を引き起こします。

脳出血の主な原因

  • 高血圧:血管の壁が弱くなり、破裂しやすくなる。慢性的な高血圧が最も大きな原因。
  • 脳動脈瘤の破裂:血管の一部が風船状に膨らみ、破裂する。
  • 動静脈奇形:先天的に異常な形をした血管が破裂する場合がある。

高血圧が長期間続く中高年に多く見られます。突然の激しい頭痛や意識障害が主な症状です。

3. くも膜下出血(約10%)

くも膜下出血は、脳を覆う膜の一つである「くも膜」の下にある空間に出血が起こる病気です。原因の多くは脳動脈瘤の破裂です。

くも膜下出血の主な原因

  • 脳動脈瘤の破裂:血管の弱い部分が膨らみ、破裂することが主な原因。
  • 動静脈奇形:血管構造の異常が関与することもある。

突然の「雷に打たれたような激しい頭痛」が代表的な症状です。若い人でも発症することがあり、早急な治療が必要です。

これらの3種類は、それぞれ原因や治療法が異なるため、適切な診断と治療が不可欠です。予防には生活習慣病の管理が非常に重要です。

脳卒中の特徴的な症状

脳卒中の症状は、障害を受けた脳の部位によって異なりますが、急激に発症するのが特徴です。そのため、早期発見と迅速な対応が極めて重要です。脳卒中の疑いがある場合は、速やかに医療機関を受診することで、後遺症を最小限に抑え、命を救う可能性が高まります。

それぞれの症状について、詳しく説明します。

片側の手足の麻痺

脳の運動を司る部分やその経路が損傷されると、片側の手足が動かしづらくなったり、力が入らなくなったりします。この麻痺は、脳の障害が起こった側と反対側に現れるのが特徴です。初期には全く動かせないこともありますが、軽症の場合は力が弱まる、動きが遅くなるといった微妙な変化として現れることもあります。

顔面の片側が垂れる

顔面の筋肉を動かす神経が影響を受けると、顔の片側の筋肉が緩み、笑顔を作った際に口角が片方だけ上がらない、飲み物を飲むと片側の口から漏れるといった症状が生じます。この症状は、特に顔をよく観察することで早期に気づくことが可能です。

言語障害、ろれつが回らない

言語を司る脳の左側の特定部位(ブローカ野やウェルニッケ野)が損傷を受けると、言葉を発することが困難になる、話しても単語がつながらない、他人の話を理解できなくなるといった問題が現れます。この症状は、話す能力と理解する能力のどちらが影響を受けたかによって異なります。

視覚障害

視覚を処理する脳の後頭葉や視神経が影響を受けると、片側の視野が見えなくなる「同名半盲」や片目が完全に見えなくなるといった症状が現れます。軽度の場合、視界の一部がぼやける、欠けるなどの異常として気づくこともあります。

めまい、ふらつき

脳幹や小脳が障害を受けた場合、平衡感覚が乱れ、突然の強いめまいやふらつきが発生します。このため、立つことや歩くことが困難になる場合があります。動きを伴うと症状が悪化することもあり、しばしば酔ったような感覚を訴えることがあります。

意識障害

脳全体の血流低下や脳幹の直接的な損傷によって、意識に異常が生じます。軽度ではぼんやりする、反応が遅れるといった症状から、重度では完全に意識を失う昏睡状態に至ることもあります。このような状態は、生命に直結する緊急性の高いものです。

激しい頭痛

特にくも膜下出血では、「雷に打たれたような激しい頭痛」が特徴的な症状として現れます。この頭痛は突然発症し、吐き気や嘔吐を伴うことが多く、場合によっては意識を失うこともあります。この症状は、他の脳卒中の症状よりも患者自身が強く自覚しやすい場合があります。

FASTテストで脳卒中チェック

脳卒中が疑われる場合、簡単に症状を確認する方法として「FASTテスト」が役立ちます。この方法は、顔・腕・言葉・時間の4つのポイントをチェックすることで、脳卒中の可能性を早期に見極めるものです。それぞれのポイントについて詳しく解説します。

F:Face(顔)

患者に笑顔を作ってもらい、顔の左右が対称かどうか確認します。片側の顔が垂れていたり、口角が上がらない場合は脳卒中の兆候です。顔面の筋肉を動かす神経が障害されると、このような異常が現れることがあります。

A:Arms(腕)

両腕を前に伸ばして上げてもらいます。このとき、片方の腕だけが下がってしまう場合は、腕を動かす筋肉を制御する神経が損傷されている可能性があります。腕が重く感じたり、全く持ち上がらない場合も要注意です。

S:Speech(言葉)

患者に簡単な言葉を話してもらい、発音がはっきりしているか、内容が明確かどうかを確認します。言葉が不明瞭であったり、会話が成り立たない場合、脳の言語を司る部分が損傷されている可能性があります。

T:Time(時間)

これらの症状を確認したら、症状が始まった時間を記録します。脳卒中は時間との闘いであり、治療が早ければ早いほど後遺症を最小限に抑えることができます。症状が確認されたら迷わず救急車を呼び、記録した時間を医療スタッフに伝えましょう。

FASTテストの重要性

FASTテストは、脳卒中の兆候を素早く見つけ、適切な対応を取るための非常に簡単で有効な方法です。特に、症状が出た瞬間から治療までの時間が患者の予後に大きく影響するため、迅速な行動が命を救う鍵となります。家族や周囲の人がこのテストを知っていることで、救命率が大幅に向上します。

症状が見られたら

脳卒中の疑いがある症状を確認した場合、迷わず119番に電話して救急車を要請することが最優先です。特に、FASTテストで片側の顔や腕の動きに異常が見られたり、言葉が不明瞭な場合は緊急性が非常に高いと判断できます。その際、次のポイントを押さえて行動しましょう

  1. 症状が現れた時間を記録
    症状が出始めた正確な時刻を把握し、救急隊員や医療スタッフに伝えます。脳梗塞の血栓溶解療法(t-PA)など、一部の治療は発症から数時間以内が有効であるため、この情報が治療に大きく影響します。
  2. 患者を安静に保つ
    患者が倒れている場合は、動かさずに楽な姿勢を取らせます。頭を高くしたり、無理に座らせる必要はありません。吐き気や嘔吐がある場合は、気道を確保するために横向きに寝かせます。
  3. 周囲の人に協力を依頼
    救急車が到着するまでの間、家族や周囲の人に患者の状況を観察してもらい、必要に応じて症状の変化を記録します。
  4. 患者の意識や反応を観察
    意識がはっきりしているか、呼びかけに反応があるかを確認し続けます。症状が悪化する場合もあるため、経過を伝えられるようにしておきます。

FASTテストの限界

FASTテストは、脳卒中の簡易的な判断方法として非常に有効ですが、すべての脳卒中症状を網羅しているわけではありません。このため、FASTテストだけで脳卒中の有無を完全に判断することはできず、いくつかの限界があることを認識しておく必要があります。

  1. 小脳や脳幹の障害を見逃す可能性
    FASTテストは、主に顔や腕、言語の異常を中心に確認するため、めまいやふらつき、小脳や脳幹が関与する症状は診断から漏れることがあります。これらの部位の脳卒中は、平衡感覚の異常や意識障害、呼吸困難など、異なる症状を呈することが多いため注意が必要です。
  2. 軽度の症状を見逃すリスク
    初期の脳卒中では、麻痺や言語障害が軽度で目立たない場合もあります。FASTテストでは異常が見つからなくても、患者が「手が少し動きにくい」「頭がぼんやりする」などの軽い症状を訴える場合も脳卒中の可能性があるため、医療機関への受診が推奨されます。
  3. くも膜下出血の症状が含まれていない
    くも膜下出血は「突然の激しい頭痛」が特徴ですが、FASTテストではこの症状が評価項目に含まれていません。頭痛が主訴の場合でも、脳卒中の可能性を念頭において早急に対応する必要があります。

FASTテストは、脳卒中の早期発見に非常に有用ですが、限界を理解したうえで活用することが重要です。特に、テストで明らかな異常がなくても、患者の様子が普段と異なる場合や、症状が軽度でも疑いがある場合には、安全を優先して医療機関を受診することが最善の行動です。脳卒中は時間との勝負であるため、「迷わず救急車を呼ぶ」という意識が命を救う鍵となります。

脳卒中の検査・診断方法

脳卒中が疑われる場合、迅速かつ正確な検査が重要です。

  1. 画像診断
    -CT(コンピュータ断層撮影):短時間で脳出血やくも膜下出血の有無を確認します。
    -MRI(磁気共鳴画像):脳梗塞を高精度で検出します。
    -MRA(磁気共鳴血管撮影):血管の状態や狭窄・閉塞を確認します。
  2. 血液検査
    血糖値、コレステロール値、凝固因子を評価します。
  3. 心電図・心エコー
    心房細動や血栓の原因となる心疾患の有無を確認します。
  4. 頸動脈エコー
    頸動脈の動脈硬化や狭窄を評価します。

各検査について、詳しくはこちらをご覧ください。

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脳卒中の治療

脳卒中の治療は、種類(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)や発症からの時間、患者の状態によって異なります。それぞれの治療方法を具体的に解説します。

脳梗塞の治療

脳梗塞は、脳の血管が血栓や動脈硬化によって詰まることで血流が途絶え、脳細胞が損傷を受ける疾患です。この場合、治療の主な目的は詰まった血管を再開通させ、脳への血流を回復させることです。

  1. 血栓溶解療法(t-PA)は、血栓を溶かす薬(アルテプラーゼ)を静脈に投与する治療法です。発症から4.5時間以内に行う必要があり、脳梗塞の初期治療として非常に有効ですが、適応外のケースもあるため注意が必要です。
  2. 血管内治療では、カテーテルを使って直接血栓を除去します。この方法は、発症から6~24時間以内に行うことで高い効果が期待されます。特に、大きな血管が閉塞している場合やt-PAが使えない場合に適しています。
  3. 抗血小板薬や抗凝固薬の投与は、血栓の再発を防ぐために行います。これらの薬は、脳梗塞を引き起こした原因に応じて選択され、アスピリンやワルファリン、DOAC(直接経口抗凝固薬)などが使用されます。

脳出血の治療

脳出血は、脳内で血管が破れて出血する病態です。この場合、出血を止め、脳へのダメージを最小限に抑えることが治療の目的となります。

  1. 血圧管理は、出血の拡大を防ぐために行います。降圧薬を使用して血圧を適切にコントロールしますが、過度に血圧を下げると脳への血流が不足するため、適切な範囲内で管理されます。
  2. 手術では、血腫除去や動静脈奇形の修復が行われます。血腫除去は、脳に圧迫を与えている血の塊を取り除き、神経のダメージを軽減する目的があります。一方、動静脈奇形の修復は、異常血管の破裂を防ぐための処置です。これらの手術は、出血量が多い場合や患者の症状が悪化している場合に行われます。

くも膜下出血の治療

くも膜下出血は、脳を覆うくも膜の下にある空間に出血が生じる病態で、脳動脈瘤の破裂が主な原因です。治療の目的は再出血を防ぐことであり、動脈瘤の処置が中心となります。

  1. 動脈瘤のコイル塞栓術は、カテーテルを用いて動脈瘤の内部にコイルを詰め、血流を遮断する方法です。この治療は体への負担が少ないため、高齢者や重症患者にも適しています。
  2. 開頭クリッピング術は、動脈瘤の根元を金属製のクリップで閉じる手術です。この方法は、動脈瘤が大きい場合やカテーテル治療が適応外の場合に選択されます。確実性が高く、再出血の予防に非常に効果的です。

治療方法は脳卒中の種類や状態に応じて異なりますが、いずれの場合も早期治療が患者の予後を大きく左右します。特に、発症からの時間が治療の選択肢や効果に直結するため、迅速な医療機関へのアクセスが不可欠です。これらの治療を適切に実施することで、後遺症を最小限に抑えることが期待されます。

脳卒中の予防

以下に、具体的な予防方法を詳しく解説します。

脳卒中の予防は、日常の生活習慣を見直し、特に、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病をコントロールすることが重要です。これに加えて、心房細動や動脈硬化などのリスク因子を定期検診でチェックすることで、発症リスクを大幅に減らすことができます。これらの予防策を継続的に行うことで、脳卒中を未然に防ぎ、健康的な生活を維持することを心がけましょう。

生活習慣の改善

まず、日常生活の中での食事や運動、喫煙・飲酒の見直しが脳卒中の予防に直結します。食事面では、減塩を徹底することがポイントです。1日あたりの塩分摂取量を6g未満に抑えることで高血圧のリスクを低減できます。また、野菜や果物を多く摂取し、カリウムの摂取量を増やすことで、血圧をさらに安定させる効果が期待されます。

運動に関しては、中程度の有酸素運動を週に150分以上行うことが推奨されています。具体的には、30分程度のウォーキングを週に5回行うことが効果的です。運動は血圧を下げるだけでなく、体重管理や血糖値の安定にも寄与します。

喫煙は脳卒中の最大のリスク要因の一つです。タバコを吸うと血管が収縮し、動脈硬化が進行しやすくなります。禁煙することで脳卒中リスクが大幅に低下することが証明されています。さらに、アルコールは適量であれば問題ありませんが、過剰摂取は血圧を上昇させ、リスクを高めるため注意が必要です。

生活習慣病の管理

脳卒中の予防には、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病を適切に治療することが不可欠です。高血圧は脳卒中の最大の原因とされており、特に140/90 mmHgを超える場合には降圧薬の使用を検討し、正常値(120/80 mmHg以下)を目指します。糖尿病では、血糖値の管理が重要であり、食事療法や薬物療法を通じてHbA1cを適正値に保つことが求められます。脂質異常症に対しては、LDLコレステロールを低下させるため、スタチンなどの薬を使用することが有効です。

心房細動の管理

心房細動は、不整脈の一種で心原性脳梗塞の主要な原因です。この不整脈により心臓内で血液がよどみ、血栓が形成されやすくなります。この血栓が脳に流れて血管を詰まらせることが脳梗塞を引き起こします。心房細動がある場合、抗凝固薬を適切に服用することで血液をさらさらにし、血栓形成を防ぐことが重要です。最近では、ワルファリンだけでなく、DOAC(直接経口抗凝固薬)といった新しい薬が多く用いられるようになり、副作用の少ない治療が可能になっています。

定期検診の重要性

脳卒中の予防には、定期的な検診も欠かせません。特に、頸動脈エコー検査や血液検査を通じて動脈硬化の進行状況を把握することが重要です。頸動脈エコーでは、首の血管(頸動脈)にプラークや狭窄がないかを確認できます。動脈硬化の兆候があれば、食事や薬物療法を通じて早期に対処することが可能です。また、血液検査では、血糖値やコレステロール値を測定し、生活習慣病のコントロール状況を確認します。