手足のしびれや力が入らない(脱力)症状とは
手足のしびれや脱力感は、神経・筋肉・血管などさまざまな要因で引き起こされます。軽度な症状でも長期間放置すると、機能の回復が遅れたり日常生活に支障が出たりすることがあります。症状の程度や出現頻度、部位によって原因が異なるため、専門的な診察と検査による正確な診断が重要です。
日常生活で起こりうる困りごと
ペンや箸がうまく持てない、字を書くのが難しい
細かい指の動きが求められる作業(文字を書く・食事で箸を使うなど)が困難に。握力の低下やしびれによって、ペンや箸を落としてしまうこともあります。
細かい作業ができなくなる(針に糸を通す・ボタンを留めるなど)
指先の感覚が鈍くなると、細やかな感覚を必要とする作業が難しくなります。視覚的には見えていても、感覚が伴わないため思うように動かせません。
靴ひもを結べない、ボタンを留められない
しびれや脱力が手指や手首にある場合、日常生活で多用するこれらの動作がスムーズに行えなくなります。
歩行中につまずく、ふらつきや転倒が増える
足の筋力低下や足先の感覚障害により、歩行のバランスが崩れます。 つまずきやすい、段差がわかりにくいなどの症状がでると、転倒によるケガのリスクが高まります。
鍋やフライパンを持ち上げられない
腕の筋力や握力の低下により、料理の際に重いものを持ち上げる動作が困難になる場合があります。
家事や料理を続けると強い疲労感が出て、途中でやめてしまう
筋力の維持が難しくなり、同じ動作を続けると疲れや痛みが増してくることがあります。
こんな症状は注意
下記のような症状を伴う場合は、早期に医療機関を受診してください。神経や血管の緊急性の高い障害が疑われます。
- しびれが手足だけでなく、顔や体幹にまで広がる
- 突然、片側の手足がまったく動かせなくなる(急性の麻痺)
- しびれや脱力が短期間で急激に進行し、日常生活に重大な支障が出る
- 夜間に症状が強くなり、睡眠に影響が出る
- 頭痛、めまい、視力障害、ろれつが回らないなどの症状も同時に出現
- 痛みやしびれが激しく、我慢できないほどである
- 発熱や体重減少など、全身状態の悪化を伴う
しびれや脱力感の具体的な表現
しびれの症状
- ピリピリ・チクチクする感覚
皮膚表面を針で刺すような感覚。正座の後の足のしびれのような感覚。 - ジンジンとした鈍い感覚
電気が流れるような感覚。肘をぶつけた後に小指がしびれるような感覚。 - 感覚の鈍さ
触られても気づきにくい、あるいはまったく感覚がない状態。 - 冷たさや焼けるような感覚
実際の温度とは関係なく冷たい・熱いと感じる。
脱力感(力が入らない症状)
- 特定の動作が難しくなる
箸を持つ、ボタンを留める、ペンを握るなどの繊細な運動がうまくできなくなる。 - 物を持てない・握力の低下
スマートフォンやコップをよく落とすようになる。日常動作において「握る」動作が難しくなる。 - 歩行や姿勢の不安定さ
足先が引っかかる感覚、階段の上り下り時のふらつきなど。「すり足」になることもあります。 - 左右差がある場合
片側のみ動かしづらい場合は、中枢神経(脳や脊髄)が原因の可能性が高まります。
しびれや脱力感の原因と主な疾患
末梢神経の障害
糖尿病性ニューロパチー
- 糖尿病のコントロールが不十分な状態が続くと、手足の末梢神経が傷害されます。
- 足先や手先にビリビリ・チクチクしたしびれが生じ、悪化すると感覚麻痺や潰瘍を引き起こすこともあります。
手根管症候群
- 手首の「手根管」という狭いトンネルで正中神経が圧迫される疾患。
- 親指から薬指の一部にかけてしびれや痛みが出やすく、夜間や早朝に症状が強まるのが特徴です。
肘部管症候群
- 肘の内側を通る尺骨神経が圧迫され、小指や薬指にしびれや麻痺感を感じます。
- スマホの長時間使用や肘を机に強くつく習慣などが原因になることがあります。
椎間板ヘルニア(頸椎・腰椎)
- 椎間板が飛び出して神経根を圧迫し、腕や脚にしびれや脱力感を起こす。
- 首(頸椎)や腰(腰椎)の特定の姿勢・動作で痛みやしびれが強まることが多いです。
中枢神経の障害
脳卒中(脳梗塞・脳出血)
- 脳の血管が詰まる、または破れることで、突然片側の手足にしびれや麻痺が生じる。
- 顔の片側が下がる、ろれつが回らない、意識障害などを伴う場合は救急対応が必要です。
多発性硬化症(MS)
- 中枢神経系に炎症性の病変が複数箇所で発生し、しびれや視力障害、筋力低下など多彩な症状が繰り返し起こります。
- 若年成人に多くみられ、病状が良くなったり悪くなったりを繰り返すのが特徴です。
筋肉や神経筋接合部の異常
筋ジストロフィー
- 遺伝性の筋疾患で、骨格筋の変性と萎縮が進行的に起こる。
- 一般的には幼少期から症状が現れるケースが多いですが、タイプによっては成人以降に発症する場合もあります。
重症筋無力症
- 神経から筋肉への指令がうまく伝わらなくなる疾患。
- 眼の周囲や顔面の筋力低下、物が二重に見える(複視)、夕方になると症状が悪化しやすいなどが特徴です。
血行不良や代謝異常
末梢動脈疾患(PAD)
- 動脈硬化によって手足の血流が悪化し、歩行時や運動時にしびれや痛み(間欠性跛行)が生じます。
- 休憩すると痛みが改善するのが特徴ですが、進行すると安静時にも痛みや冷感が続くようになります。
ビタミンB群の不足(B1・B12など)
- ビタミンB1不足は脚気を引き起こし、しびれやむくみが生じる。
- ビタミンB12不足は末梢神経や脊髄後索障害を起こし、しびれや感覚異常を起こすことがある。
- アルコールの過剰摂取や偏った食生活が原因となるケースも。
診断のために行う検査
血液検査
糖尿病の有無、ビタミン不足、炎症反応、甲状腺機能などを調べ、内科的原因を探索します。
神経伝導検査(NCS)
末梢神経の伝達速度や電位を測定し、神経が圧迫・損傷されているかを確認します。
MRIやCTスキャン
脳や脊髄に血管障害や腫瘍、ヘルニアなどの構造的異常がないかを画像で評価。 特に脳卒中や椎間板ヘルニアが疑われる場合に重要です。
筋電図検査(EMG)
筋肉に微弱な電流を流し、筋肉や神経の興奮を記録。 筋ジストロフィーや重症筋無力症、末梢神経障害の評価に用いられます。
超音波検査(頸動脈エコーなど)
血行不良が原因と考えられる場合、頸動脈や下肢動脈の狭窄・動脈硬化の程度を調べます。
神経学的診察
医師による詳細な問診や触診、反射検査、筋力テストなどを行い、どの部位の神経や筋肉に問題があるかを詳しく調べます。
治療のアプローチ
薬物療法
- 末梢神経障害の症状を軽減する薬(神経痛に対する薬、ビタミン剤など)
- 炎症や免疫異常を抑えるステロイド・免疫調整薬
- 血糖コントロール(糖尿病)、血圧・脂質管理(動脈硬化)など
理学療法(リハビリテーション)
筋力トレーニングやストレッチ、関節可動域の改善を行い、機能回復を図ります。
手術
- 椎間板ヘルニアや神経の圧迫が原因の場合、外科的に圧迫を取り除く手術を検討します。
- 手根管症候群や肘部管症候群でも手術が行われることがあります。
生活習慣の改善
食事管理
バランスの良い食事、ビタミンB群やタンパク質の十分な摂取。
適度な運動
有酸素運動や筋力維持トレーニングなど、医師・理学療法士の指示に沿って実施。
禁煙・節酒
血行不良や代謝異常の悪化を防ぎ、全身の健康状態を改善。
精神的サポート
病気や痛みが長期化する場合、ストレスや不安が蓄積しやすいです。必要に応じてカウンセリングや心療内科との連携も視野に入れます。
早めの受診をおすすめします
手足のしびれや力が入らない症状は、放置すると進行し、回復までに時間がかかる場合があります。自己判断で市販薬だけに頼ったり、痛みやしびれを我慢し続けたりすると、原因疾患が進行して治療が複雑になる可能性もあります。
症状が気になり始めたら、症状の出現時期・頻度・強さ・きっかけなどをメモしておくと診察時に役立ちます。
「疲れやすい」「いつもと違う感覚がある」程度でも、一度専門家に相談することで早期治療につなげることができます。
正確な診断と適切な治療は、症状の改善や生活の質(QOL)の向上につながります。手足のしびれ・脱力感が気になる方は、ぜひお早めにご相談ください。